退職金課税の見直し議論に物申す:DINKsと共働き世帯の視点から反対する理由

政府・与党が「退職金課税の見直し」に関する議論を再始動したというニュースが報じられました。1989年以来30年以上も変わっていない制度を現代の働き方に合わせて改正しようという趣旨ですが、これには多くの疑問と懸念がつきまといます。

特にDINKs(子どもを持たない共働き夫婦)や共働き世帯の視点からすると、これらの改正案は単なる「現役世代の減税」以上に深刻な影響を及ぼす可能性があります。今回の議論が抱える問題点やリスクを、DINKs・共働き目線で詳しく掘り下げていきます。

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退職金課税見直しの背景:働き方の多様化と税制の矛盾

まず、この議論の背景を整理します。

政府は、転職が増えた現代において「勤続年数が長い人ほど退職金の課税が軽減される現行制度が不公平だ」と主張しています。たしかに、働き方が多様化し、終身雇用が当たり前でなくなった現代社会では、一部の長期勤続者だけに恩恵が集中する税制は時代にそぐわない部分もあるでしょう。

しかし、だからといって、退職金課税を単純に見直すことが「働き方の変化」に対応するものと言えるでしょうか?むしろ、現在の議論は多様性を理由に制度を切り崩しつつ、現役世代全体への負担を増やす可能性を含んでいるのです。DINKsや共働き世帯の多くが、この議論の直接的な恩恵を受けるとは限らず、むしろ間接的な負担増を押し付けられるリスクがあります。

2. 老後資金への不安を助長する政策

退職金制度が果たしてきた役割

退職金は、これまで多くの日本人にとって老後資金の柱でした。

特に企業年金や厚生年金が十分ではない場合、退職金は老後の生活を支える重要な資金となります。DINKsや共働き世帯の場合、子どもがいない分、老後の経済的自立が必要であり、退職金はその基盤となる資金の一つです。

退職金への課税優遇が縮小されると、老後資金を計画的に貯めるインセンティブが削がれることになります。DINKsや共働き夫婦は、子育て費用がかからない反面、自分たちの老後資金をすべて自力で準備する必要があります。退職金課税の強化は、こうした層にとって大きな打撃となり、将来的な生活設計を脅かすものです。

現役世代への還元は本当に実現するのか?

政府は「現役世代の給与を手厚くするため」と説明していますが、具体的な給与増加の施策やメカニズムは明示されていません。

多くの企業が給与のベースアップを渋る中、果たしてどれだけの労働者がこの見直しの恩恵を実感できるのでしょうか?特にDINKsや共働き世帯は、現役時代における税負担が比較的重いため、退職金課税優遇を失うことで二重の負担を受けるリスクが高まります。

共働き世帯へのさらなる負担増の可能性

DINKs・共働き世帯が受ける税負担の現実

DINKsや共働き世帯は、世帯収入が比較的高い場合が多い一方で、税制の恩恵を受けにくい層でもあります。

例えば、配偶者控除や扶養控除といった税制優遇は、主に片働き世帯を前提としたものであり、共働き世帯にはあまり適用されません。また、世帯収入が高いことで、高額納税者としての扱いを受け、住民税や社会保険料の負担も比例して増加します。

退職金課税の見直しで恩恵を受けるのは、転職者や短期雇用者が中心となる可能性がありますが、共働き世帯がその恩恵を享受する機会は限られるでしょう。それどころか、長期的には税制全体の見直しの中で、さらなる所得税や社会保険料の負担が増える危険性が高いといえます。

将来的な課税範囲の拡大リスク

退職金課税の見直しが導入されれば、それは「税負担の範囲を広げる」先例となり、次に別の課税分野がターゲットになる可能性があります。

たとえば、企業の従業員向け福利厚生や、投資収益に対する課税が強化されるなど、さらに多くの共働き世帯が影響を受ける場面が出てくるかもしれません。

不公平を生む一律課税の問題

現行制度が抱える矛盾

現行の退職金課税制度は、勤続年数が長いほど控除額が増える仕組みとなっています。

この仕組みは、一部の長期雇用者を優遇する一方で、転職者や非正規雇用者に対して不公平だとの批判を受けています。しかし、これを一律課税に切り替えた場合、新たな不公平が生じる可能性も無視できません。

例えば、同じ職場で長年働いて退職金を受け取る人と、短期間で多くの職場を転々とした人とで、老後の生活設計が大きく異なるにもかかわらず、同じ課税ルールが適用されるのは適切でしょうか?このような一律課税の導入は、多様なライフスタイルを十分に考慮したものではないように思われます。

DINKsや共働き世帯への影響

長期的に働くことでキャリアを築き、老後資金を貯めようとするDINKsや共働き世帯にとって、このような課税の均一化はデメリットが大きいと考えられます。

老後の生活資金を貯めるために長年勤続して得た退職金が、他の短期雇用者と同じ基準で課税されるのは不公平に感じられるでしょう。

真の解決策:包括的な税制改革を求める

退職金課税の見直しを議論するだけでは、日本社会が抱える根本的な課題を解決することはできません。むしろ、時代遅れとなっている税制全体を抜本的に見直すべき時期に来ているのではないでしょうか。以下のような改革が必要です。

所得税控除の見直し

現在の所得税控除は、扶養控除や配偶者控除など、片働き世帯を前提とした制度が中心です。これを見直し、共働き世帯やDINKsを含めた多様な家族構成に対応する公平な控除制度を導入すべきです。

老後資金形成の促進

退職金以外の資産形成を支援する制度を拡充することも重要です。たとえば、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)をさらに強化し、老後資金を効率的に貯められる環境を整えることが求められます。

税金の透明化

納税者が納得できるよう、税金の使い道を明確に示す仕組みも必要です。

特に共働き世帯やDINKsのように税負担が重い層には、具体的な還元策を示すことで、税制への信頼を回復する必要があります。

短絡的な課税見直しではなく未来を見据えた政策を

退職金課税の見直しは、一見すると合理的な提案に思えるかもしれません。

しかし、その背景には多くの矛盾や問題が潜んでいます。特にDINKsや共働き世帯の視点から見ると、この見直しは負担の公平性を損ない、長期的な不利益をもたらす可能性が高いといえます。政府には、目先の税収確保ではなく、多様な働き方や家族構成に対応した未来志向の税制改革を進めてもらいたいと切に願います。

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